漫画「とめはねっ!  鈴里高校書道部」の中で、主人公の大江縁と望月結希が初めて挑戦する臨書について顧問の影山先生が、「トン・スー・トン」の三折法で書かれたものが楷書であり、それが初唐に完成されたということを解説しているシーンが登場します。いや〜、「とめはね」は書の参考書としてとてもいい漫画です。
 望月結希が最初に書いたのは「一」の字で、まさにその三折法が一番わかりやすい文字と言えます。


1.横画は何種類あるのか?

 楷書の様々なパーツ(点画)の基本的な用筆のことを「基本点画」と言いますが、楷書が楷書たる所以である「三折法」がよく表れているのは「横画」と言えます。
 私の師である上條渓楓は横画の基本点画について「そりあげる線」と「伏せる線」の2種類がある、と解説してきました。しかし、数種類あると言っている書家もいるよ、と教えてくれました。
 実際、古典を臨書していると微妙な横画の違いはたくさんあり、楷書と言っても起筆が「トン」ではなく「スー」っと入っているものもあり、「そりあげる」と「伏せる」の中間くらいのまっすぐな線も見られます。
 ちなみに「三折法」は入筆部分の「起筆」、筆を動かして運筆する「送筆」、しっかりと止める「終筆(収筆)」の三つの部分からなっています。


2.5種類を挙げる例と3種類を挙げる例

 狩田巻山は「楷書精習(日本習字普及会発行)」の中で、「上にそる形」「平らかな形」「下に曲がる形」「筆圧軽い〜筆圧強い」「送筆−筆の方向筆圧などを変化した例」の5種類をあげています。
 また、線の形・質の違いが起こる要因について「形、速度、筆圧、テクニック、心」によると記述しています。「形、速度、筆圧」によって線の形が変わるのは当然として、「テクニック」とは起筆を順筆にするのか逆入筆にするのかと言った筆遣いのテクニックのことと思います。そしてもうひとつ「心」によって線の形・質が違ってくるという表現は、書の奥深さをよく言い表していると思います。

 西川寧は「書道講座 楷書(二玄社発行)」の中で、「仰勢」「平勢」「覆勢」の3種類をあげています。「三」の字がまさにその3種類からなっているという解説です。
 同様に宮澤正明も「常用漢字書きかた字典(二玄社発行)」の中で、「直線的に書かれる場合と上・下にややそる場合」という3種類をあげています。


3.「仰勢」「平勢」は運筆的にほとんど同じではないか?

 狩田巻山の言う最初の3つ「上にそる形」「平らかな形」「下に曲がる形」と宮澤正明の言う「直線的に書かれる場合と上・下にややそる場合」共に、西川の言う「仰勢」「平勢」「覆勢」のことでしょう。そして、書道界一般にもこの「仰勢」「平勢」「覆勢」と言う言い方をしていると言う印象です。ですので、公開している私の動画(YouTube「書くとこ見たい」)の中でも、この3種類に分類して説明しました。
 けれど、私が実際に書いて見て、「仰勢」「平勢」は右肩上がりの度合いの差があるくらいで、筆使いにあまり差がないように思えます。筆使いと言う観点と、点画の形という観点から基本点画を考える時、確かに3種類(あるいはそれ以上)と言えるようですが、筆使いを習得する観点からいうと、上條渓楓の2種類という解説は的を得ているように思います。私も外苑前教室では、「そりあげる線」と「伏せる線」の2種類と解説することにしています。

 では、YouTube「書くとこ見たい」の動画をご覧ください。