真田紐といえば、真田幸村が高野山に流刑になった時に、収入を得るために発明した丈夫な紐だと子供の頃に父に聞いた覚えがあります。真偽は定かではありませんが、長野県では広くそう信じられていると思います。
 掛け軸の紐は、その真田紐に類するものだと思っていたのですが、似ているのは平紐という形だけで、掛け軸の紐は「組紐」で真田紐は「織紐」と全く別の種類のものでした。織紐である真田紐は伸縮がほとんどなく、強い紐。組紐は逆に伸縮性があり、帯や包みの結び紐など、柔軟性が必要なところに使われています。

キツツキのついた後のような柄の紐

1.「啄木」の名称はその柄からきている

 掛け軸の紐は、色の違う糸によって組まれた組紐で「啄木組(たくぼくぐみ)」という組み方の紐です。そのまだら模様が、キツツキのついた跡のようだ、というところからこの名前がついたそうです。キツツキのことを漢字で書くと「啄木鳥」。なるほど、石川啄木の啄木はキツツキのことだったのですね。


八双(半月)
 掛け軸の紐は、掛け軸上部の半月型の木材「八双(あるいは半月)」に打ち付けられた「環(かん)」に結びつけられた「掛緒(かけお)」と、それに結ばれて掛け軸をしまう時に巻く「巻緒(まきお)」から成っています。この掛緒と巻緒をセットで「啄木」と呼びます。


2.たくぼくは下座に

 掛け軸をかける時、巻緒は用なしなので軸の裏側に垂らしておきますが、その時軸のどちら側に寄せておけば良いか迷うことがあります。というか、全く気にしない方もいるようです。まあ、あまり目につかないところですので、どちら側にあっても、あるいは真ん中やちゅうぶらりんのところにあってもさほど気にならないかも知れません。

 ちなみにWikipwdiaで「掛軸」のページを調べて見たら、「巻緒を解いて掛緒の右側に寄せる。」との記述がありましたが、この見解の根拠は不明です。
 茶人の心得百首をまとめた「利休百首」に次のようなものがあります。

「墨蹟をかける時にはたくぼくを末座の方へ大方は引け」
「絵の物をかける時にはたくぼくを印ある方へ引きおくもよし」

 これによると、掛け軸の巻緒は下座の方に寄せる、掛け軸が絵画の場合には印の押してある方に寄せてもよい、ということです。日本では、仏教によって伝来した掛け軸が、室町時代以降、茶道によって大いに用いられた歴史がありますから、利休百首の記述は一目置くところがあるように思います。


「水」の字に結ばれた啄木

3.巻く時は水の字に

 掛け軸は、床の間に掛けっぱなしはいけないそうです。ま、そうだよね、と思いますが…
 しまう時には丁寧に巻いて、巻緒で巻いて止めます。巻緒は古いものでは3回、5回、7回巻きがあったそうですが、現在はほとんどが3回巻きです。巻緒を巻く前には「あて紙」を巻きますが、これは紐によって掛け軸が傷んだり、紐の跡がつかないためのものです。
 3回巻いたら、掛緒の下をくぐらせて輪を作り、輪を反対側に持って行って上方向から通します。この時、左右の長さはほぼ同じにします。
 このようにして巻いた啄木は、全体で「水の字」の形となりますが、掛け軸を火から守るまじないの意味があるそうです。