楮・三椏・雁皮などを原料に日本で漉かれた紙を「和紙」と言うのに対し、中国で漉かれた書画に使用する紙は「画仙紙」と呼ばれます。「画仙紙」と言う呼び方は「宣紙」からきているそうで、その「宣紙」とは、中国・宣州(宣城)で作られた上質な書画用紙のことを呼びます。

1.宣紙の条件

 「国史補」と言う書物によると、中国では9省18州に紙の産地があったとのことです。各地で良質の紙が造られたとのことですが、とくに安徽省は造紙の中心で,宣州から産出した「宣紙」は書画用として重用されました。「宣紙」と呼ばれるものは、

・安徽省宣城地域で漉かれた紙であること
・定められた原料を用いて、伝統的手法に基づいて漉かれていること

とのことです。

 原料は、「青檀」と言う樹木の皮、楮皮、藁、竹などで、特に「青壇皮」を使用することが宣紙の特徴と言えるでしょう。
 楡(二レ)科の青壇(せいだん)樹という落葉樹」は、中国の限定された地域に分布し、特に安徽省宣城市で採れた青壇皮が最良品とされているそうです。この樹皮は耐水性・耐蝕性に優れて強度があり、キメが細かいそうです。


2.宣紙の名品「紅星牌」

 書道に携わる人ならおそらく知らない人はいない「紅星牌」は、宣紙の代表とも言える書画用紙です。
 紅星牌は、安徽省涇縣産の青檀皮と砂地で育てられた稲藁が原料で、生産地の渓流水で漉かれます。また、紙の大きさに合わせて複数の紙漉き職人が紙を漉く伝統技法で漉かれ、紅星牌を漉くようになるには3年はかかるそうです。青檀皮は虫を寄せ付けにくく腐りにくいため、大切な書画を長期保存できる性質を持っています。唐代から書画はじめ重要な書類や保存資料に宣紙が使われてきましたが、その中でも名高く、宣紙の代表格となっているのが紅星牌です。その紙質は書き味もよく、滲みが美しく出ることから日本でも愛用者の多い書画用紙となりました。
 言うまでもありませんが、滲みどめなどの加工は一切されておらず、かな作品には向きません。

3.紅星牌の種類

 紅星牌には大きく分けて2種類があります。ひとつは「棉料(めんりょう)」で、青檀皮が約30%、稲藁が約70%使用されています。もうひとつは「浄皮(じょうひ)」で、青檀皮が約40%、稲藁は約60%です。青檀皮の量の違いですが、それが価格の違いともなり、浄皮の方が棉料より高いです。棉料は藁が多いため滲みが出やすく、浄皮はにじみが少なく薄くても丈夫です。
 また、それぞれに厚みの違いがあり「単宣(たんせん)」は基準となるもの、「重単宣(じゅうたんせん)」は厚めに漉いたものです。さらに、「綿連宣(めんれんせん)」は単線よりも薄く漉いたもの、「夾宣(きょうせん)」は二度すくいして漉いたもので単宣の倍ほどの厚さ。「二層夾宣(にそうきょうせん)」は夾宣を二枚重ねにして1枚の紙として乾燥させたもの、「三層夾宣(さんそうきょうせん)」は同様に三枚重ねになります。厚くなるほど、墨の食い込みが強くなり、力強い線の表現となります。さらに厚さとは別に「浄皮羅紋(じょうひらもん)」と言う、浄皮を羅紋と呼ばれる細かな網目状の簾で漉かれたものもあります。

 以上の違いから、紅星牌の種類としては下記のようなものがあります。

・棉料単宣(めんりょうたんせん)
・浄皮単宣(じょうひたんせん)
・浄皮羅紋(じょうひらもん)
・棉料綿連宣(めんりょうめんれんせん)
・棉料重単宣(めんりょうじゅうたんせん)
・棉料夾宣(めんりょうきょうせん)
・棉料二層夾宣(めんりょうにそうきょうせん)
・棉料三層夾宣(めんりょうさんそうきょうせん)

 自分の書きたい作品により、紙の特性を考えて選ばれると良いでしょう。