書道用語辞典 【は行】
《配字》(はいじ)
字くばりのこと。文字を書く紙または木など、限定された面のどこに字を置くか、上品・風雅に字配りすることで、作品はよくなる。《背勢》(はいせい)
対向する縦画が内側にそり、背中をつき合わせたよな形の字。例えば「国」等の字で、左右の縦線が内側に反るようになるさま。スマートで引き締まった字となり、厳しい印象を与える。代表的なものに「九成宮證泉銘」がある。この反対を「向勢」という。《背臨》(はいりん)
「臨書」の方法の一種で、手本を伏せて暗記して書くこと。これまで学んだ文字の造形や用筆がどの程度習得できたかを理解反省することができる。「暗書」ともいう。《袴》(はかま)
篆刻で印面に傷がつかないようにかぶせるキャップのこと。印の形に合わせて作られ、紙製または布製のものが主流である。《白印》(はくいん)
篆刻で、文字の部分が彫られ、文字が白く出る印を言う。「雅印」に用いられ、普通「引首印・関防印」と「姓名印・屋号印」に用いられることが多い。《白寿》(はくじゅ)
99歳のお祝いのこと。「百」から「一」を差し引くと「九十九」であり、漢字としては「一」をとった残りの部分が「白」となることから。《帛書》(はくしょ)
絹に書いた文字や書物、あるいは手紙のこと。1973年、中国湖南省長沙市郊外の馬王堆から出土した。《白文》(はくぶん)
1:刻印の文字が、白く出るもののこと。文字の部分が彫り込んである印。2:漢文で「句読点」や返り点をつけてないもの。
《幕末の三舟》(ばくまつのさんしゅう)
勝海舟、山岡鉄舟、高橋泥舟をいう。《幕末の三筆》(ばくまつのさんぴつ)
市川米庵(富山)、貫名海屋(徳島)、巻菱湖(新潟)をいう。《箱書》(はこがき)
書画等を入れた桐箱等へ書かれたもの。一般には上蓋の表に「題」を、上蓋の裏に「書者、年月日」を書く。《波勢》(はせい)
「隷書」の技法のひとつで、長い横画が波のようにうねり、終筆部が太く右上に尖ること。《波磔》(はたく)
「隷書」の技法のひとつで、右払い線の最後が太く尖ること。《撥音》(はつおん)
「ん」と表記する音で、はねる音のこと。通常は子音で直前に母音を伴い、単独では音節とならない。《白界》(はっかい)
写経などのとき、ヘラや木で線の跡をつけることを言う。《八双》(はっそう)
掛軸の上部の半月形の横木のこと。「表軸」「発双」「八宗」「半月」ともいう。《撥鐙法》(はっとうほう)
筆を浅く執り、自由に筆を動かして書く書き方のこと。《八分》(はっぷん)
「古隷」のひとつで、「波傑」のある隷書のこと。「今隷」ともいう。「八」の字を書く場合に似て、それぞれの画が互いに相背く「筆勢」となり、しかも左右同似型に形づくると定義されている。「古隷」よりも「運筆」に律動性があり、「波勢」をきかせた様式のものであるため、「古隷」にはない装飾性がある。前漢から後漠にかけて生まれた。《把筆》(はひつ)
筆を持つこと。《針切》(はりぎれ)
穂先の良くきいた細い筆で、針の先のように鋭い線で書かれた平安末期の「かな」のこと。《半紙》(はんし)
和紙の事実上の標準寸法で、もともとは杉原紙(すぎはらがみ、すいばらがみ、椙原紙=全紙)を半分に切っていたのでこのように言う。大きさは24.2センチ×33.3センチ(8寸×1尺1寸)。「判紙」とも書く。原料は楮、三椏で、藁を原料としたのを藁半紙という。《盤寿》(ばんじゅ)
将棋界で最もめでたいお祝いのこと。将棋盤のます目が9x9=81であることから、81歳のお祝い。《半折》(はんせつ)
縦136.3センチ横35センチの紙。普通の掛軸の大きさ。「全紙」の縦半分。《半截碑》(はんせつひ)
「断碑」のこと。《碑陰》(ひいん)
「石碑」の裏・側面のこと。正面は「碑面」という。《碑額》(ひがく)
石碑の正面の一段高いところに刻してある標題のこと。多くの場合「篆書」である。《碑碣》(ひけつ)
「石碑」で「碑」は方形のもの、「碣」は円柱形のものをいう。《肥痩》(ひそう)
筆線の「細太」のこと。《批正》(ひせい)
批評批判して正すこと。《筆圧》(ひつあつ)
筆の穂にかかる圧力のこと。筆圧は線質に表れ、書者の個性につながる重要なものである。《筆意》(ひつい)
筆を運ぶときの気構え。書は、書者の気持ちが筆を通して自然と表れるものであり、この書者の心構え、心情。《筆架》(ひっか)
筆乗せ、または筆掛けのこと。《秘閣》(ひっかく)
書を書くときに、肘を乗せる台のこと。書いたばかりの字が自分の手首などで汚れないためや、腕の支えとするため。竹を半分に割って作られたものが多い。「腕枕」ともいう。《筆管》(ひっかん)
筆の軸の部分のことで、竹や木で作られることが多い。《筆順》(ひつじゅん)
文字を書く時の、点画の順序。楷書、行書、草書それぞれによって筆順が違ってくる場合もある。《筆勢》(ひっせい)
書画に現れた筆の勢いのこと。筆力。《筆洗》(ひっせん)
筆の鋒(穂)を洗うための器のこと。筆洗い。《筆池》(ひっち)
→「筆洗」《筆筒》(ひっとう)
筆を立てて保管するための筒のこと。種類、素材は様々ある。《筆帽》(ひつぼう)
筆の鋒(穂)のキャップのこと。使用中の筆を一時的に休ませておく時、鋒が乾燥して固まってしまうのを防ぐことができる。ただし使用後、洗った筆にかぶせると、筆の乾燥を妨げてしまうので使用しない。《筆法》(ひっぽう)
筆の用い方、運び方など筆づかいのこと。《筆鋒》(ひっぽう)
筆の穂のこと。《筆脈》(ひつみゃく)
実際にはつながっていない点画から点画の気持ちのつながり、あるいは筆の運びのこと。一文字の途中で墨継ぎをすると、この筆脈がきれるためよくない。《筆力》(ひつりょく)
1.「運筆」の勢いのこと。2.書の力のこと。
《紐下》(ひもした)
巻物や掛軸を巻くとき、紐の下に当てて傷がつかないように置く紙のこと。→「巻紙」《百人一首》(ひゃくにんいっしゅ)
100人の歌人の和歌を一人一首ずつ集めたものを言う。特に、1235(文暦二)年ころ京都小倉山の山荘で、藤原定家が撰したといわれる「小倉百人一首」が有名。明治初期までは一般に「ひゃくにんしゅ」と言った。「小倉百人一首」の影響で、その後、数々の百人一首ができたが、これを「変わり百人一首」「変態百人一首」「異種百人一首」などという。
《表意文字》(ひょういもじ)
漢字のように、一文字が意味をもっている文字のこと。《表音文字》(ひょうおんもじ)
カタカナ・ひらがな・アルファベットのように、それ一文字では意味をもたない文字。《表札》(ひょうさつ)
家の門等にかける姓名を書いた札。◆表札を書く時などの墨のにじみ止めについて:白墨等を塗る場合があるが、後の処理が難しいという難点がある。焼き塩で面をこする、焼き明礬でよく拭くなどの方法がある。
《表装》(ひょうそう)
書画を鑑賞するために裂や紙をはり、「巻物」「掛け軸」「屏風」「襖」「額」などに仕上げること。もともと中国から伝わってきたもので、その様式を「文人表具」という。
日本では、室町時代に書院作りの床の間ができて以降、現在見るような掛け軸形式の表装が行われるようになったといわれている。その後、茶の湯の流行とともに、「茶掛」形式のものがあらわれ、表装の仕方も日本独特の様式に仕立てられるようになった。これを「大和表具」という。
●軸表装の様式
◇文人表具・袋仕立て、丸表具(同種類の裂地で周囲を囲んだ様式)
・切り仕立て(「見切り仕立て」ともいい、中縁を一文字と同様にしたもの。)
・明朝仕立て(丸表具の左右に上から下まで通して細い縁をとった様式)
◇大和表具
・真の真(天地、総縁、中縁、一文字ともに本紙を囲む様式)
・真の行(一文字だけが周囲を囲まない)
・真の草(一文字がない 仏像、祖師に限る)
・行の真(一文字が周囲を囲む)「一文字回し」「三段表装」「三段仕立て」ともいう。
・行の行(一文字が上下だけ)大和表装の代表で「本表装」ともいう。
・行の草(一文字がない)「二段仕立て」ともいう。
・草の行(中縁の左右の柱が狭い)
・草の草(一文字がない)
・丸窓(左右の柱に風帯と同じ裂地を使ったもの)
・台表具(短冊、色紙、扇面など小さな作品をそのまま表装すると、姿も悪く、保存上も悪いので、本紙より大きな台紙に一度貼ったものを本紙として表装したもの)
《平仮名》(ひらがな)
日本語の表記に用いられる表音文字で、かなの一種。漢字の「音」だけを生かして、漢字の意味とは関係なくその音の表記に利用する「借字」として「万葉仮名」を起源とし、発展・略体化してできた文字。1900年(明治33年)「小学令施行規則」の「第一号表」に「48種の字体」だけが示され、以降これらが一般に普及するようになった。これに採用されなかった字体は、以降「変体仮名」と呼ばれるようになった。《賓主分明》(ひんしゅぶんめい)
「篆刻」で、偏と旁、字と字の関係で、変化をもたすために「主」と「賓」を明らかにすること。《風帯》(ふうたい)
掛軸の上部から垂れ下がっている二本の帯のようなもの。「雀威し・燕威し」ともいう。→「表装」《風鎮》(ふうちん)
掛軸の下部、軸木の両端に紐で下げた一対の飾り石のことで、軸を安定させるもの。《封泥》(ふうでい)
漢時代「木簡」などを送るとき、木簡を縄で縛り、縄の上に粘土を塗り、そこに印を押して封緘した。封緘に用いた泥なので「封泥」という。《布局》(ふきょく)
→「布置」《袋綴じ》(ふくろとじ)
装丁の一種で、紙を二つ折りにして、折り目でない方を綴じる方法。《付語》(ふご)
「雅号」の下につける謙遜語のこと。・山人、樵夫、山樵、仙史…世俗を離れて山中に隠遁している人という意味。
・外史、散人…野にあって文筆活動をしている人。
・漁史、漁翁、釣人…海辺に隠れ住む人。水に関係ある雅号に用いる。
・道人…修業している人。
・居土…仏に帰依している人。
《不祝儀袋》(ぶしゅうきふくろ)
不幸があった場合の香典等の包み紙。水引は、黒白の結び切り。すべての宗派に通用する。文字は、極力薄い墨字がよいと言われる。《伏せる》(ふせる)
横線を書く時、両端を下げ中央を上に少し盛り上げる書き方。《布置》(ふち)
字くばりのこと。「敷き並べる」を意味する。→「布局」「配字」《布置章法》(ふちしょうほう)
布置は字配り、章法は作品構成上の種々の配慮を意味する。変化と統一の原理を生かして上下左右文字群と文字群の調和ある美しい配置をいう。《筆》(ふで)
『筆の各部の名称』●筆の種類
剛毛筆:狐・馬・狸・鹿などの硬い毛を用いた筆。腰か強いので初心者向き。含む墨の量は少ない。柔毛筆:主に羊毛を用いた筆。腰が柔らかく含む墨の量も多い。いい字が書けるが使いこなすには一定の熟練が必要。
兼毫筆:剛毛と柔毛とを混ぜた筆、両者の欠点を補いあっている。
固め筆:毛を糊て固めた筆。必要な分だけおろして、根元は固めた状態で使用する。必要以上にさばけてきた場合は、フノリで固めなおす。
さぱき筆:毛を糊で固めてない、さばいた筆。
唐筆:中国製の筆。
和筆:日本製の筆。
●穂の長さ
長鋒:穂の長さが軸の太さの5~6倍以上あるもの短鋒:穂の長さが軸の太さの2~3倍以下の長さのもの
中鋒:長鋒と短鋒の中間の長さのもの
穂が長いものほど草書や行書といった滑らかな字に適し、短いものほど楷書や写経といった硬い文字に適している。ただし、穂が長くなるにつれて扱いは難しくなる。
●筆の良否の見分け方
1.鋒が鋭く尖っていること。2.さばき筆の場合、鋒の先端がきれいに揃っていること。
3.つけ根が一様な膨らみであること。
●筆の手入れと保管
1.墨汁が全く出なくなるまで丁寧に根元まで洗うこと。2.洗ったら下げて乾かすこと。横にしたり、鋒を上にしたりして乾かすと根元に墨が固まってしまう可能性があり、良くない。
3.保管時にはキャップは絶対にしないこと。乾きが悪くて腐ったり、毛を痛めることがある。筆巻での保管が望ましい。
●筆の持ち方
単鈎法:親指と人差し指で持つ。双鈎法:親指と人差し指・中指で持つ。
全鈎法:全部の指をかける。
●筆を持っての書き方
回腕法:脇を大きく離して、腕を前につき出して大きな動きをする持ち方。懸腕法:腕を上げて、ひじを脇から離して書く方法。
提腕法:筆を持った腕を軽く紙面につけて軽く方法。
枕腕法:手の上に、筆を持った他の手を乗せて書く方法。
●筆の産地
熊野筆:広島県安芸郡熊野町奈良筆:奈良県奈良市
豊橋筆:愛知県豊橋市
川尻筆:広島県安芸郡川尻町
●筆の大きさ(太さの直径)
特号:2.5cm一号:2.1cm
ニ号:1.5cm
三号:1.2cm
四号:1.0cm
五号:9.9mm
六号:8.0mm
七号:7.0mm
八号:6.0mm
九号:5.0mm
十号:4.0mm
《筆掛》(ふでかけ)
「筆架」ともいう。紐で筆を掛けて保管する道具。木、竹製などがあり、装飾的な保管ができる。洗った後の筆の保管法として、吊るしておくのが理想的なので、そのためにも便利な道具である。《筆立》(ふでたて)
→「筆筒」《筆塚》(ふでづか)
使い古した筆を供養する塚。《筆筒》(ふでづつ)
→「ひっとう」《筆巻》(ふでまき)
筆を巻いて保管し、持ち運ぶもの。竹ひご製が多い。《分間布白》(ぶんかんふはく)
分間とは、点画の間隔を同じくらいにして秩序だてることを言う。布白は、分割されて生じる余白が等しく配置されるようにすることをいう。→「間架結構」《文人表具》(ぶんじんひょうぐ)
中国の表具様式。→「表装」《文節》(ぶんせつ)
文を不自然でない程度に区切った最小の単位のこと。例えば「きのうネ おかあさんとネ なしがりにネ いったの。」のように、幼児語のように「ネ」を挿入できるところが文節の切れ目である。小学校二年生までの教科書は、この文節で分かち書きしてある。《文鎮》(ぶんちん)
紙を押える道具。金属、木、陶器、石などで作られるが、主流は金属製である。真ん中に持ち手がある場合、置いたときに中心の目印になるので便利である。「書鎮」「鎮紙」「圧紙」ともいう。《文房四宝》(ぶんぼうしほう)
書道の重要な基本用具、筆、墨、硯、紙の四つをいう。《文房用具の数え方》(ぶんぼうようぐのかぞえかた)
筆(一本、一管、一茎、一枝)墨(一挺、一対)
硯(一面)
紙(一枚、一葉、一帖、一頁、一締、一連)
印(一顆)
石碑(一基)
軸物(一幅、一軸)
額縁(一本)
巻物(一巻、一軸)
屏風(一架、一双)
硯箱(一個、一竺)
《偏》(へん)
漢字の構成要素のひとつである偏旁のうち、主に左側に置かれるものの総称。左右ふたつに分けられる漢字の左の部分。《扁額》(へんがく)
門戸や室内で高い位置に掲げる横長の額。一般的に「半折」の横額を指す。通常右から左に書くが、近年は現代表記に合わせて左から右に書く場合ものある。《偏小旁大》(へんしょうぼうだい)
「偏」を小さく、「旁」を小さくすること。《変体がな》(へんたいがな)
漢字を一音の「かな」として読むかな文字で、現在は使われない昔のかなのこと。1900年(明治33)の小学校令施行規則により、ひらがなは一音一字に統一されたため、それ以外のひらがなをこう呼ぶ。《偏旁同位》(へんぼうどうい)
「偏」と「旁」の頭の部分が同じ高さであること。「隷書」の特徴でもある。《鋒》(ほう)
筆の毛の部分。《鋒先》(ほうさき)
筆の穂先。先端。《倣書》(ほうしょ)
臨書学習の仕上げの段階で、古法帖等の学習を積んで十分に習熟した後、その古法帖の文字とは別の文字を、手本の用筆、結体等に倣って書くこと。《奉書紙》(ほうしょがみ)
楮を原料とした和紙で、白土などを混ぜて漉きあげられたもの。もともと天皇、将軍などの下知文書を書くのに用いられた。《法帖》(ほうじょう)
保存・鑑賞・学書用に仕立てられた墨書こと。主に中国の書に用いられる言葉。原本を「臨書」したりして写し取り、木や石に刻んで拓本をとり、帖に仕立てた。「法書」ともいう。《方勢》(ほうせい)
角張った線で書いた字。鋭く、雄渾、力強い感じを受ける。→「円勢」《方筆》(ほうひつ)
角張った感じの筆づかいのこと。特に「転折」の部分などがかっちりと折れ曲げたような筆づかいとなり、鋭く力強く厳しい筆致が生まれる。→「円筆」《鋒茫》(ほうぼう)
硯の表面の微細な突起。《ボールペン》(ぼーるぺん)
1888年、アメリカのジョン・ラウドが考案した筆記具。1943年、ハンガリーのラデスオ・ピロが毛細管作用を利用し、さらに書きやすく改良した。《鋒櫛》(ほぐし)
筆の鋒(穂)の乱れを直す櫛で、鋭い小さい針のようになっていて、高価なものが多い。墨をしっかり含ませて、くしけすると筆は非常にしなやかになり、書く字もふくよかなしなやかな字になる。
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